【おすすめ本紹介】『泳ぐのに、安全でも適切でもありません』-江國香織
▼目次
- はじめに
- 作家・江國香織さんとは
- 『泳ぐのに、安全でも適切でもありません』をおすすめしたい方・魅力
- ひつじが唸った印象的なことばたち
- まとめ
1.はじめに
今回ご紹介するのは江國香織さんの『泳ぐのに、安全でも適切でもありません』です。
愛を通して人生を切りとる傑作短篇集。
安全でも適切でもない人生の中で、愛にだけは躊躇わない―あるいは躊躇わなかった――10人の女たち。愛することの喜び、苦悩、不毛……。第15回山本周五郎賞受賞の傑作短篇集。
2.作家・江國香織さんとは
江國香織
1964年東京生まれ。1987年「草之丞の話」で「小さな童話」大賞。1989年「409ラドクリフ」でフェミナ賞を受賞。以後、坪田譲治文学賞、紫式部文学賞、路傍の石文学賞、山本周五郎賞の受賞。2004年『号泣する準備はできていた』で直木賞を受賞。島清恋愛文学賞、中央公論文芸賞、川端康成文学賞、谷崎潤一郎賞を受賞。
江國さんは数々の文学賞を受賞している小説家、児童文学作家、翻訳家です。
※以下、ひつじの主観が多く含まれております。
ひつじの考えでは、江國さんの右に出る恋愛小説作家はいないと思っています。人の曖昧な感情を繊細に読み取って明文化する感性が際立っているのです。
江國さんは、その場面の登場人物の感情・情景に最もふさわしい日本語を選んでいる、という印象を抱かせるほど丁寧な表現をされます。
感情を一度分解して、無駄を最大限削ぎ、ふさわしい表現を新しく組み立てるかのように、
江國さんの紡ぐ言葉は高い透明度をもっていると思います。
ひらがな、漢字の使い方、改行の場所、1つ1つに必ず意味があり、そこには江國さんが表現したいことのすべてが詰まっています。そのこだわりと江國さんの紡ぐ日本語のうつくしさにいつも感動してしまいます。
ちいさく光るそれらが集まることで最高に静謐で情熱をはらんだ小説になっているのです。
江國さんの本を読むと、「愛とは」「幸福とは」といった曖昧で膨大なものが、
少しずつひも解くように、自分の中で確かな感覚になる、そんな体験をすることができるのです。
3.『泳ぐのに、安全でも適切でもありません』をおすすめしたい方・ポイント
こんな方におすすめ
- どの作品から手に取ろうか迷っている、江國ワールドビギナーの方
- 忙しくてじっくり本を読む時間はとりにくい方
ひとこと要約
女10人、色とりどりの愛と生活
10の短篇であること・山本周五郎賞を受賞した作品であることから、江國さんワールド初心者の方にも手に取りやすいおすすめの一冊となっております。
4.ひつじが唸った印象的なことばたち
うんとお腹をすかせてきてね
あたしたちは毎晩一緒にごはんを食べる。……だからあたしは思うのだけれど、あたしたちの身体はもうかなりおなじものでできているはずだ。栄養素というか肉体的組織の構成成分として。その考えは、あたしを誇らしい気持ちでみたす。
「全部肉体になるといいな裕也と食べるものは、全部きちんと肉体にしたい」……
わずらわしいことは何も存在しなくなる。
あたしたちは身体全部を使って食事をする。おなじもので肉体をつくり、それをたしかめるみたいにときどき互いの身体に触れる。あたしたちはますます動物になる。あたしたちのテーブルだけ深い森になる。森の中で、寝室でたてるみたいな声をこぼす。
ジェーン
結局のところ、すべてのカップルがそうであるように、私たちにも私たちの特別があり、偶然と必然のねじれたかたいで存在するそれは、私と向坂さんがはからずも積み上げてしまった、二人だけにしかわからないモニュメントなのだった。
愛しいひとが、もうすぐここにやってくる
大切なのは快適に暮らすことと、習慣を守ることだ。
そう思いながら、私は本の頁をめくる。……私の好きな男が妻と別れないのは、そこに帰るのが彼の習慣だからだろう。私はそんな風に考えてみる。人にはみんな習慣があるのだ。
江國さんの描くいわゆる「不倫の関係にある恋人同士」には健全な愛がある。潔癖なまでに完全で美しいのが特徴だ。
絶対に格好悪い真似をしたり、相手に迷惑をかけたりはしない愛し方。
しっかりと自分をもった(もしくは保とうとしている)女性しか出てこない。それは江國さん自身の在り方も大きく反映されているのだろうと思う。彼女自身が洗練され且つ情熱的な恋愛を経験されたのだと思う。
ひつじの読んだ江國さんの小説では、不倫の関係にある男女が、関係の形として一緒になることはない。
彼らはあくまでも彼らの習慣はそのままに、相手を極上の愛でもてなす。
それはなんというか、分別のついたいいおとなだからこそ、そのままに相手を傷つけることもなく大切にできているのだと思う。
自分の人生をある程度完成させた自立した人間だからこそ不倫は充実するのかもしれない。
5.まとめ
江國香織さんの小説『泳ぐのに、安全でも適切でもありません』をご紹介いたしました。
愛することを通していくつもの人生を味わうことのできる珠玉の1冊となっておりますので、ぜひ手に取ってみてください。